【品川区 A邸】
バルコニーに出ると遮るものがほとんど何もなく、遥か彼方まで空が広がっています。
都心を一望出来る、という表現は陳腐で好きではないですが、
じっくり時間を掛けて眺めていたくなる様な、居心地の良さを感じます。
少し目線を下に移すと、そこには大井町線がコトコトと、あたかも路面電車の様に走っている姿があり、
その規則的な音からは、とても健康的な印象を受けました。
中延という街は、大井町線と浅草線が交差しており、
いずれの路線も大きなターミナル駅と直結しておりませんが、
大井町や品川方面に向かう方にとっては、実は利便性の高い街でもあります。
この部屋のバルコニーという存在は、
本来は公園ですべき事を自邸の窓の向こうで出来るという、とても有機的で楽しい空間です。
子供の三輪車の練習や、珈琲をすすりながらの読書。
夏の暑い日には、移動式のパラソルの下でモヒートを嗜む。
晴れた日の朝は絶好のヨガ日和。
家の中の要素がどんどんバルコニーに侵食して、室内と外の空間がどんどんあいまいな境界線になっていくことが、
もしかしたら一番気持ちの良い状態かもしれません。
そうやってバルコニー空間を育てていくことが、ここに住む楽しみとなるはずです。
この物件は空間の中心に「ライブラリー・スペース」(図書室)があります。
お施主様の職業柄、数多くの書籍や雑誌をお持ちでしたが、
それらを書斎空間の中に取り込むのではなく、子供の成長と共にお父さんの仕事を少しずつ垣間見れる様に、
家族のコモンスペースとしてのライブラリー・スペースを設け、
敢えて仕事の資料と子供向けの絵本を同居させました。
このライブラリー・スペースの外のレイヤーに、お父さん用の書斎があります。
お父さん用の書斎は、メインベッドルームと子供部屋の間にある、街中でいう路地の様な溜まり空間です。
基本的にはお父さんの空間ですが、子供が大きくなるにつれ、
ライブラリー・スペースからお父さんの仕事用の雑誌を引っ張り出してきて、
隣に座って眺めていることをも許容できる長さを設けています。
この家には、家族共用の空間がもう一箇所あります。クローゼットルームです。
それぞれの個室に十分な収納を設けるのではなく、家族全員が同じ空間に収納することで、
空間を効率的に使用することはもちろん、家族のコミュニケーションを図る空間にもなり得ます。
それぞれの空間を緩いレイヤーで繋げることで生まれる家族のコミュニケーションを、形にしました。