ポーターズペイントショールームでも初の試みとなる、建築資料の展覧会を開催させていただきました。
今回のテーマは「大江建築」。1950〜1980年代を中心に活躍した建築家・大江宏氏の建築の中から、「茨城県公館」「三番町共用会議所」に関する写真・図面・実測資料について、写真家の新良太氏・アーキビストの藤本貴子氏にご協力をいただきました。
茨城県公館
1974年に竣工した茨城県知事公館および住居。様式や装飾に富んだ建築として知られていましたが、2021年に解体が決定・実行され現存していません。解体前に法政大学 小堀哲夫研究室による実測調査が行われており、図面・模型・写真が残されています。資料は藤本貴子氏を含む研究者に引き継ぎ、現在も研究や保存に活用されています。
三番町共用会議所
旧山縣有朋邸の跡地に建てられた建物で、1956年頃の庁舎別館を大江宏氏が設計し、農林省(現・農林水産省)庁舎別館として長年利用されてきました。その後は全省庁共用の会議所として使われ、現在でも例年一般公開が行われています。
ショールームの空間に合わせて、サイズや見せ方を選定いただいた写真展示。「Salon(和室)」には掛け軸仕様の写真と装飾を設置いただいております。「Library」には資料を設置いただきました。

入口の最も広い空間「Lobby」には、2つの建築の実測調査に関するパネル展示と茨城県公館のドアを活用した机を展示いただきました。机は藤本研究室の学生さんと家具デザイナーの方が共同で制作されています。

12月20日に開催されたトークイベント「大江宏設計:茨城県公館と三番町共用会議所―写真家と研究者の熱視線」では、それぞれの皆さんの大江建築への思いを聞くことができました。ゲストに日本文理大学准教授・石川翔大氏と、文化学園大学准教授・種田元晴氏をお迎えして開催されました。

(左から新氏、石井氏、藤本氏、種田氏)
種田氏:まずは藤本さん、大江建築に関してどのような研究をされているのですか。
藤本氏:研究活動の一環として、大江氏設計の建築資料を収集・整理した「大江宏アーカイブ」を作成しています。彼の学生時代から没後まで、年代ごとに8つのグループ分けをしています。しかし、取り壊されてしまうなどして現存していないものも多いのが大江建築の現状です。
「茨城県公館」は、2021年に同大学の小堀哲夫研究室が実測調査した資料を引き継いで研究しています。学生と部材活用に取り組み、解体時に保存していただいていたドアを机にしました。学生が原寸大で考えて制作し、設計者の意図を理解する、教育的な意義のある取り組みでした。

「三番町共用会議所」の実測調査では色見本作成にも取り組みました。色の細かい調査や記録・再現は、建築の実測調査ではまだ一般的でなく発展の余地があります。建築の色の研究は、設計者の意図や時代背景、当時の建築生産体制の解明へ貢献できる可能性があります。

種田氏:ありがとうございます。石井さんは大江宏氏の研究に長年取り組まれていらっしゃいますが、いかがでしょうか。
石井氏:今回は新さん撮影の大江建築の写真が展示されているということで「大江宏と建築写真」について紹介します。大江氏が旅行の際に撮影したといわれる写真には、独特な構図のものが散見されます。
構図の中に複数の要素を捉えようとしていると感じます。大江氏の建築の理念「混在併存」は、こんなところにも表れているのです。

話は変わりますが、大江建築の特徴として「1番の見どころ」にあたる部分がないことが挙げられます。対して、大江氏の同級生だった丹下健三氏は「1番の見どころ」が分かりやすい建築家です。ですから新さんが大江建築を撮影されたときは難しかったのではないかと感じます(笑)
新氏:確かに大江建築は分かりやすい「見どころ」が多くないかもしれないですね。しかしその前におっしゃった、彼の建築に表れる「混在併存」の2面性を同時に捉えることはできました。特に三番町共用会議所は、洋の要素と和の要素がより「併存」していました。
種田氏:ありがとうございます。三番町共用会議所の色調査ではどんなことが分かりましたか。
中込(ポーターズペイント):今回の色見本作成では、ポーターズペイントのカラーカードを活用いただき現地調査や部材収集を行っていただきました。
そのうえで何種類か色合いのパターンをご提示し、再現色を決めていきました。意外な共通点として緑色が含まれているものが多かったです。今回は地下室や階段室からの採取が多かったので、日焼けなどの経年変化はあまりなかったと考えられます。
オーストラリア生まれのポーターズペイントは、元々建築の補修から始まった塗料ブランドでした。ですのでこうした建築の保存や保管に携わることができたことを光栄に思います。

新氏:こうした調査や展示・発表を通じて、大江建築がさらに有名になっていってほしいですね。茨城県公館の解体は残念でした。様々な事情もあるかと思いますが、保存や保護の取り組みがもっと広まってほしいと思います。
種田氏:そうですね。大江建築を守るために、広めていくことは重要ですね。
今回の展示にかかわる大江建築実測調査で、ポーターズペイントは「色見本の作成」をお手伝いさせていただきました。これまでNENGOとして、リノベーション工事や販売仲介で「歴史的建造物の継承」に取り組ませていただいておりましたが、今回は建築資料の「保存」の観点から関わらせていただく機会となりました。

建築を調査しその証を伝えていくことも、歴史的建造物を継承する取り組みの一つであると実施を通して実感しました。
これからもNENGOは100年後の街つくりに向けて尽力してまいります。
開催概要
展覧会「新 良太 写真展 + 藤本貴子研究室 展示」
2025年12月17日(水)-12月24日(水)10:00-18:00
PORTER’S PAINTS SHOWROOM
トークイベント「大江宏設計:茨城県公館と三番町共用会議所ー写真家と研究者の熱視線」
2025年12月20日(土)
PORTER’S PAINTS SHOWROOM