「長く大切にされてきた建物だからこそ、その『らしさ』を未来に残したい。」
そんな想いから2025年10月にプロジェクトサニーが始動しました。
第2弾の記事は「耐震補強」について。
建物を残すか・壊すかという判断には「耐震性」の視点が非常に重要です。特に築古の物件を残して住み続けるためにはまず地震に対する強度を診断し、建物の状態やご入居状況に合わせて補強することが必要な場合があります。
「所有する建物を残したいけれど、価値を維持できないから壊すしかない」という考え方は一般的ではあります。それでも建物を残せる可能性について、着手する前に理解しておくことは重要です。
私たちNENGOは収益化フォーマットに乗っ取った画一的な建物を建てるより、その土地や建物らしさを活かすことが価値をつくり、100年後の街並みをつくっていくと考えています。
今回は耐震補強工事の準備や経緯・工法・気になるお金の事情について、賃貸マンションの1棟まるごとリノベーション「プロジェクトサニー」を進行中のNENGO濱口に話を聞きました。
―まず最初に、このマンションで耐震補強工事に至った理由は何ですか。
耐震補強工事は「プロジェクトサニー」の核となる部分です。このマンションは1970年竣工のいわゆる「旧耐震」の建物で、使い続けるには耐震性を高める必要があります。今回の計画では現在の「新耐震」の基準にもとづいて、一定の安全性を確保します。
実はこの建物、過去にも一度耐震に手を入れた経緯があります。
約10年前、先代オーナーが耐震補強工事を検討されていました。しかし当時の計画では、建物全体を補強するには入居者の一時退去が必要でした。
「住んでいる方の生活を止めたくない」という方針から、全面補強ではなく入居したまま工事が可能な“ピロティ部分”に絞った耐震補強工事が実施されたのです。具体的には、1階ピロティに耐震壁を追加する工事が行われました。
ピロティは地震の際、建物の中でも弱点になりやすい部分です。先代オーナーもそのリスクを理解されたうえで、まず最優先で対策を講じられたのだと思います。
ですので、1970年代ごろの建設でピロティのある物件は要注意です。耐震性能が十分かどうかまずは診断することをおすすめします。

10年前に耐震補強として追加されたピロティの壁(一部)
ちなみにこの耐震壁の仕上げには一部モザイクタイルが施されており、そうした意匠面も気にされて工事をされていたようです。
―今回のリノベーションでは、どのように補強するのですか。
今回の計画では新耐震の基準を元に、建物を挟むように外側に補強を足します。道路側とその反対側の2面に、グリッド状のSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)の構造体を追加します。

1枚目:before 2枚目:after(イメージ 作成:吉原環建築設計)
これは言うなれば、10年前の工事への再挑戦です。当時よりも詳細な計測・計算・設計方法が確立されて工法の選択肢も広がったことで、10年前には実現できなかった住んだままでの補強工事が可能になりました。
―耐震補強の工事にあたって、コスト面の問題はありましたか。
ありました。内装工事に加えて耐震補強までしようとすると、工事コストがかなりかかってくるものです。ですから融資を受ける方法を模索しました。築古の建物はリフォームやリノベーションの融資を受けづらいという状況のなか、融資条件を満たすカギとなったのが耐震補強工事でした。
また、助成金活用もテクニカルな問題でした。耐震補強工事は建築工事のなかでも多額のコストがかかり、建物を残す判断の上で課題になりやすいです。今回は“緊急道路に面している”などの条件から、地域自治体の助成金を活用することができました。
これは裏を返せば1棟まるごと建物を残したい、と考えるとき「助成金を活用できる可能性」に着目すれば希望が見出せるとも言えます。
自治体によって定められている制度や助成の対象になり得る条件はさまざまです。物件のある都や区に助成制度があるかどうか、併用可能か否かなどありますので、所有物件について気になる場合は専門家に相談しましょう。
特に耐震補強は施工可能な業者が少なく、助成金や金融関係の知識も複雑で難しいので、ぜひNENGOに相談してください。
―耐震補強工事は現在進行中とのことですが、工事の難しさや気を付けるべきことはありますか。
まず耐震補強工事は請け負える業者が少ないです。実測技術・適切な工法や道具・助成金と金融の知識など、建築・不動産業のなかでもさらに専門性が求められます。
今回の耐震補強工事においては、耐震診断から耐震設計、補強工事の監理までできる設計チーム、さらに耐震補強工事の実績が豊富な施工会社とタッグを組むことで、万全な体制で臨むことができました。
リノベーションは工事をスタートしてみないとわからないことも多いのが難しいところです。図面と実物は全く同じではありません。一部を解体調査して初めてわかることもあります。
今回の解体調査でも実際の建物と図面で約2センチずれている部分を確認し、それに合わせて設計を調整しています。
当初の設計を実物に合わせて調整していく必要があるため、設計者・現場監督・職人の密なコミュニケーションが求められる腕の見せ所です。新築とリノベーションでは、同じ建築でもやり方が全く異なります。
さらに、こうした構造中心の工事では見栄えがおろそかになりがちです。耐震性の確保、また工事の安全性を優先すべきではあります。見栄えは考慮できずとも仕方がないとの考えもあり得ますが、今回は諦めずに取り組んでいます。
デザイン面で協力をお願いしている建築家の吉原環さん(吉原環建築設計)、そしてオーナーも一緒に外観の見栄えも考慮しながら検討を進めています。

耐震補強フレームの仕上げバリエーション(作成:吉原環建築設計)
―最後に、耐震工事について建物を所有する方に伝えたいことは何ですか。
どんな建物でも、新耐震だから安心だとは限りません。1981年以降も改訂がされ、耐震関連の規定は変わり続けています。最新の基準に適合していたとしても、絶対に被害を受けないという保証にはなりません。是非そのことを理解して、日頃から備えていただきたいです。
また旧耐震だから取り壊さなければならないということもありません。今回のプロジェクトサニーのように、建物を残すことによって生み出される価値もあると我々は信じています。
築古の所有物件を残すか壊すかお悩みの方、我々が一緒に解決策を考えます。ぜひご相談ください。
「プロジェクトサニー」シリーズでは、賃貸マンションの1棟まるごとリノベーションの様子を追う記事を公開しています。
近日公開予定
・長期修繕工事:期間・修繕箇所・工事の方法など
・竣工写真(after)
1記事目はこちらをご覧ください。
>>建物の「らしさ」を未来につなぐ プロジェクトサニーが始動しました
https://nengo.jp/news/2025/12/project-sunny-01/