建築写真は、建築家の意図を伝えるためのものなのか。それとも、その場で感じる光や空気を写し取るものなのか。
PORTER’S PAINTS SHOWROOMで開催された建築写真展‘Colours’。建築写真を軸に活動する2人の写真家、新 良太氏と中村 晃氏による作品が展示されました。
会場には、「Cave」(設計:H2DO一級建築士事務所 久保和樹氏)、「庭々をつなぐ家」(設計:Studio KOM 岡本圭介氏/まり亜氏)、「健康な建築 桜台のマンションリノベーション」(設計:S 浅野智史氏)、「House ZPK」(設計:GoGo1122 川北豪氏)、「津田山の家」(改修設計:アトリエ・ワン)などの建築写真が並び、建築家・お施主さま・写真家・ポーターズペイントそれぞれの視点から綴られたエッセイも併設されました。
静かなショールームの空間で、写真とエッセイは互いに補完し合いながら、建築について語りかけてきます。会期中には写真家ご本人の在廊もあり、作品だけでなく「写真家が建築をどう見ているのか」その思考にも触れることができました。

今回印象的だったのは、2人の写真家がともに建築と真摯に向き合いながら、その視点にそれぞれの個性が表れていたことでした。
光によって立ち上がる空間を撮る中村氏
中村氏は1976年長野県出身。美術大学で絵画と現代美術を学び、2006年に独立。これまで多数の建築写真を手掛けており、NENGOとも長年にわたり数多くのプロジェクトで協働しています。洗練された記録写真から、空気感を含んだ情緒的な写真まで幅広い表現を行う写真家です。
中村氏が繰り返し語っていたのは、「光」の存在。
「光によって素敵に見えたり、目に止まる事が無いものに見えたりする」
物を見るということは光を見ることでもあり、建築写真においてもそうです。特にポーターズペイントの壁面は、光によって表情が大きく変化する。中村氏はそうした壁のグラデーションや空間の温度を捉えながらシャッターを切っていると言います。
また中村氏は「記録」と「表現」では記録の側面が強いとしながらも、その両方を意識していると話します。
「記録もしつつ、自分が“ここすごい良いな”って思ったものを写したい」
建築写真は、空間構成を正確に伝える役割を担います。一方で写真家自身がその場で感じた魅力を、構図や光を通して伝える側面もあります。中村氏の写真には、その両方が共存していました。
特に印象的だったのは「まず何を見せたいかを決める」という話。
空間のどこに魅力を感じたのか。どこまで引けば、どこまで寄れば伝わるのか。中村氏は、建築を単に記録するのではなく「何を見せるべきか」を考えながら撮影されています。
その感覚は展示作品の選定にも表れていました。建築写真は「説明」の要素が強いと言われます。しかし今回展示されていた写真群からは、単に空間を説明するだけでなく、その場の光や空気までも残そうとする視点が感じられました。

「桜台のマンションリノベーション」設計:S 浅野智史氏
空間を第三者へ翻訳する新氏
一方、新氏は1973年東京都出身。大学で建築を学んだ後、建築写真家に師事し2000年よりフリーランスとして活動。住宅・タワー・地下構造物に至るまで幅広い建築を撮影し、精密な建築写真で知られています。
新氏の言葉で印象的だったのは「自分を消す」という感覚でした。
「なるべく自分を消すことを意識している」
建築写真において自分の作風を前面に押し出すのではなく、その空間にとって何が最適かを考える。新氏は、そうした姿勢を長年続けてきたといいます。
しかし興味深いのは、その結果として写真に“新氏らしさ”が現れてくること。
「癖をなくしていった先に、結局個性が出るんです」
新氏は、日本の伝統文化における「型」の話にも触れながら、徹底的に真似し、削ぎ落とした先に残るものが個性なのではないかと語りました。
また、新氏は写真を「第三者に空間を伝えるためのもの」と捉えています。
「第三者が見ても、空間の雰囲気が分かるように」
そのために、新氏はまず空間全体を観察するといいます。何がこの空間を特徴づけているのか。どこから見れば、その空間らしさが最も伝わるのか。構図を決める際も「どこからどこまで入れるか」を非常に意識しているそう。

「Cave」設計:H2DO一級建築士事務所 久保和樹氏
色についての話も、興味深い一言が。
「色って、絶対的なものじゃないんだよね」
光の入り方・反射・時間帯によって、色は絶えず変化する。だからこそ新氏は、単に色見本通りに再現するのではなく、自分がその場で受けた印象に近づけていくのです。
これは、中村氏の「光によって空間は変わる」という話とも重なっていました。お2人とも、色を固定された情報としてではなく、空間体験の一部として捉えているのです。
コンセプトだけでは写らないものを撮る
今回の展示で特に印象的だったのは、写真家が設計コンセプトや建築家の意図を踏まえながらも、それだけに頼らず空間と向き合っているということでした。
新氏も中村氏も、撮影前には建築家からコンセプトの説明を受けるといいます。しかし、空間に込められた思いや背景のすべてが共有されるわけではありません。そのため写真家は、実際にその場に立ち、自ら空間を観察しながら撮影に臨みます。そして、展示されたエッセイを読むことで「答え合わせ」が起きます。
「そういうことを考えていたんだ、って答え合わせになった」
写真家は、建築家から共有されたコンセプトを手がかりにしながらも、空間そのものを観察し、光を読み、空気を感じ取りながら撮影している。
それは写真家の勘なのか、それとも空間自体が意図を語っているのか。その両方なのか。
建築写真は単に建築を記録する行為ではなく、空間を読み取り第三者へ翻訳する行為でもあるようです。だからこそ、誰が撮るかによって建築の見え方は変わるのです。
今回の展示を通して見えてきたのは、2人の写真家が建築家の意図を受け取りながらも、それだけでは終わらずに、現場で感じた空間の魅力を写真として掬い上げているということでした。
それこそが、彼らに建築写真を依頼する理由なのかもしれません。
開催概要
「新 良太 + 中村 晃 写真展 ‘Colours’」
2026年5月15日(金)~2026年5月23日(土)11:00-18:00
PORTER’S PAINTS JAPAN showroom / gallery
主催|
新良太写真事務所
中村晃写真事務所 http://akiranakamura.info/
PORTER’S PAINTS JAPAN https://porters-paints.com/
協力|株式会社NENGO https://nengo.jp/
デザイン|島田祐輔(apgm* design atelier)
企画運営|西牟田奈々(SML Architecture)、玉木慎(SML Works)