歴史的・文化的に価値のある貴重な建築財産(=歴史的建造物)は、近年時代の変遷に伴ってスクラップアンドビルドが多発しています。
相続時には多額の相続税が必要なことから、土地や建物を売却、分割販売せざるを得ず、歴史的建造物が失われてしまうケースが少なくありません。
特に、個人の所有する邸宅で、著しく築年経過しているような特殊な物件は、特別な入居者探しが求められます。しかし、現在の不動産業界はこうした建築の保護活動に取り組めていません。結果的に新築の建売戸建てとなってしまい、優れた建築であっても、継承することは難しい現状があります。
こうしたことから、NENGOは「歴史的建造物の継承」に携わっております。
歴史的建造物の継承にあたっては、オーナーさまにとどまらず、
その建物の魅力に共感して未来へ残したいと願う方々からご相談をいただいています。
私たちはそうした想いをつなぎ、建物の維持と活用を担ってくださる方を探す取り組みを行っています。
葉山加地邸は、巨匠フランク・ロイド・ライトの薫陶を受けた愛弟子・遠藤新が師の意匠を色濃く反映させて設計した建物です。モダニズム建築の粋を凝らした贅沢なつくりで、1928(昭和3)年に建造されました。
遠藤が質の高い建築を多数設計した充実期の作品で、建物から家具、照明器具に至るまで、遠藤の哲学「全一(完全に統一していること)」を表現したきわめて密度の高い住宅作品です。このことから、現存する遠藤の住宅作品の中でも最も貴重な住宅とされています。
加地邸の先代オーナーより相談を受けた一般社団法人住宅遺産トラストさまより、NENGOにお声がけいただきました。地域の人とともに住宅遺産を引き継ぐその理念と活動に賛同し、我々は新たな継承者探しに乗り出しました。
加地邸はその築年経過もさることながら、土地が広く、維持には多大な手間が掛かることが予想されます。
古いものが大好きで、雨漏りなどのトラブルが起きる建物を愛おしく思ってくれ、しかもご自身でメンテナンスしてくれるような人を探す必要がありました。
また、現在の不動産業界では、物件は「築何年、駅から何分、何LDK」といった調べ方が一般的です。そのような物件サイトに掲載したところで、加地邸の本当の価値を伝えることはできず、届いてほしい方に情報を届けることもできないと考えました。
そこで我々は、こうした古い名建築に興味と維持する意欲を持ってくれそうな方に直接お声がけをしました。実際に現地も見ていただき、その価値や維持の難しさを理解していただきながら継承を検討していただきました。
その結果、加地邸はご興味と意欲のある方に継承していただくことになりました。
2020年に改修を経て、宿泊やウエディングも開催できる民泊施設【葉山加地邸】として生まれ変わり、登録有形文化財の指定を受けました。また2021年度には今後の有形文化財建築の活用の好例として評価され、グッドデザイン賞も受賞しています。
日本では減価償却の考え方に基づいて、居住用木造建物の耐用年数は22年と設定されております。
市場に流通している居住用建築物の中で、この耐用年数(工法により耐用年数は異なります)を超えている物件は価値がないと判断され、建物分の価値はゼロとして流通している現状があります。
しかし、希代の建築家によって大切に設計・建築された建物は時代を超えて愛されており、その価値は単純な税法上の数字では図れない側面があります。
こういった物件を次世代の有志に継承し、多くの方にその建築的価値に触れていただくことで、建築に対してのリテラシー向上を図ることも、副次的な効果としてあると考えております。