■コンセプト(設計者さまより)
築25年になるマンションの一室のリノベーション、設計者らの自邸である。
植物好きでキャンプが趣味の設計者夫婦の「マンションであってもたくさんの植物に囲まれた、まるで屋外で過ごすような生活がしたい」という願いのもと、植物が育つのに適した場所、世話がしやすい設えについて考えた。まずは3LDKの典型的なマンションの既存の間取りを壊し、トイレや収納を含んだコアを中心とした行き止まりのない回遊性のあるプランを採用した。ぐるりとまわる通路が外部からの風や光を植物たちに届けるとともに滞りのない人間の動線をつくり、仕事や家事、植物の世話といった、柔らかな機能が重なる場となり、限られた面積を有効に使う空間の合理化を計っている。マンションの4階という大地と切り離された人工的な箱の中において、植物と共に、土や石に近い地面と呼応する様々な素材を用いることで“外的なる空間“の経験を生み出しながら、それでいて建築に守られているという住まいの安心感が共存する空間を目指した。
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金沢文庫のマンションリノベーション
「金沢文庫」駅。
ここ横浜市金沢区に鎌倉時代の武将「北条実時」が造った日本最古の武家文庫 「金沢文庫」から駅名が名付けられたそう。またこの土地は、美しい海と緑に恵まれていて、懐かしい雰囲気が残る商店街があります。歴史と自然、人の温かさのある街で金沢文庫のマンションの1室、設計者さまの自邸をリノベーション。
“マンションという人工的な箱の中でも、たくさんの植物に囲まれた、まるで屋外で過ごすような生活がしたい”という設計者さまの願いに添えるよう施工をしていきます。設計はこれまでNENGOが「上野のマンション」や「元住吉の家」と施工のお手伝いをさせていただいた藤原酒谷設計事務所さまです。
お住まいのイメージは”洞窟”。
まず玄関には骨材が入った珪藻土塗料を塗り、ゴツゴツとした質感が岩肌にも似ています。
玄関を開けて、右に行くと寝室、左に行くと植物たちが迎えてくれます。
床材は”土”をイメージして、粘土が主原料であるタイルを選択。
そこに扉はなく各空間につながっていく、回遊性のある空間になっています。
キッチンまでスッと伸びている造作棚も印象的です。
自然界に直線はないという考えから、左右の造作棚を引いて見たときに一直線にならないよう、格子状に仕上げています。すべての壁や棚のコーナー部分とリブ部分は、出隅の角を鋭角ではなく丸みをつけ丁寧に仕上げてあるのもポイント。
一見するとどこに扉があるのか分からない造作棚。
リブは設計者さま自身でも試行錯誤を繰り返して寸法を導いた、人がギリギリつまむことができる12㎜で。
取っ手は年月を追うごとに深みを増す経年変化が魅力の真鍮を採用されています。
格子状にあるリブは耐久性や美しさを考えながら施工し、造作棚が浮いても見える、天井と床には5㎜のすきをつくります。ここが施工で1番の難所でした。
このすきがあるのと無いのとでは、空間の圧迫感が違ってきます。
金沢文庫は横浜まで快特で約15分、駅近のスーパーなどの条件的良さだけでなく、「歴史ある建造物や文化遺産」「海と緑に恵まれた美しい自然」「昭和26年に生まれの懐かしい雰囲気が残る商店街」など現代の暮らしのスタイルを受容しながらも、歴史や風土も大切にする街です。
だからこそ設計者さまの“マンションであってもたくさんの植物に囲まれた、まるで屋外で過ごすような生活がしたい”という願いに、より寄り沿える暮らしになることと思います。
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