建築家 S 浅野智史さまより
▶マンションについて
1970年竣工のこのマンションは、建築家・内井昭蔵のマスターピースである。高度経済成長期、都市の高密度化が加速していく中、平地は開発が進み、残された斜面地は開発事業者の課題であった。内井は、この建築で最適解を導く。(日本建築学会賞受賞 物件)
▶コンセプト
このマンションは、クライアントが幼少期から慣れ親しんだ土地にあり、憧れの建築であった。
結婚後、住まいを検討していた夫妻は、土地や建築費の高騰もあり、一戸建てではなくマンションを購入し、リノベーションすることを考えていた。
そんな中、この住戸が販売され、数日後に購入した。
55年の時を得て、高度経済成長期だった竣工当時から、コロナ禍を経験し、働き方も住まい方も変化している。
9割を在宅勤務とするクライアントはより良い住環境を希望していたため、この建築をどう住み継いでいくか、原型から現型へアップデートしていく必要があると考えた。
西側に小学校の桜並木、南側に保存緑地があり、各窓からは桜や欅などの借景を望める恵まれた環境だったため、プランは気を衒うことなく、そのポテンシャルを活かした計画とした。
この建築は3.6mグリッドを基準としており、その6つをL型に構成し住戸ユニットを形成している。
住戸内に立つと、グリッドと開口部の配置から強い軸線を感じた。
借景を取り入れるだけでなく、軸線の先に50種を超える植物からなるガーデンを配置し自然との共生を目指した。
(一部抜粋・編集)
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50年以上前、急斜面に立てられたひとつの集合住宅。建築家・内井昭蔵氏設計のこの建物は今も変わらず人を惹きつけています。当時はなかった桜の木が、今では春になると道ゆく人にふわりと季節を知らせてくれる。そんな風景に導かれるように、幼い頃からこの地に親しんできたご家族が、新たな暮らしを始められました。ご家族の朗らかな空気感は、まるでこの建物が育ててきた“春”と呼応するように、そっと馴染んでいきます。