リノベーションオブザイヤー2025で特別賞を受賞し、NENGOでプロデュース・施工・入居者募集をお手伝いさせていただいた川崎市中原区の賃貸マンション。
家賃はリノベーション前と比べて1.5倍、周辺相場と比較しても頭2つほど高い本物件。にも関わらず内覧1組目で入居が決定しました。
家賃向上につながった要素や考え方とは?この物件を選ぶのはどんな人なのか?物件価値向上の裏側にある「これからの賃貸」のヒントを、今回のプロジェクトを手掛けたNENGO街・暮らし事業部マネージャー 濱口智明に聞きました。

スピーカー:濱口智明 (街・暮らし事業部)
株式会社NENGO 街・暮らし事業部マネージャー。一級建築士/宅地建物取引士。建築と不動産の両方に精通し、「おんぼろ不動産マーケット」の屋号を掲げ、不動産開発やプロデュースを担当。
―まず、この物件に出会った経緯を教えていただけますか。

はい。今回お手伝いしたのは、武蔵中原にある賃貸マンションの1室です。
この地域は生活利便性と落ち着いた雰囲気、比較的借りやすい家賃相場を兼ね備えていて、単身者とファミリー層に人気があります。居住需要は安定していて、今回の物件でも空室に困っている訳ではないという状況でした。
一方で、この街で生まれ育ったオーナーさまは、どこか個性が薄れつつある街並みに危機感を覚えていたとのことでした。そんな時、NENGOと知り合いご相談いただくことになったんです。
進め方としては、私はプロジェクトの全体管理とオーナーさまとのやり取りを担当しました。NENGO全社一体となり、工事担当の現場監督、断熱コンサルタント、ポーターズペイント担当、賃貸管理担当のスタッフに力を借り、構想から施工、入居者募集まで取り組みました。
―ありがとうございます。そもそも、このリノベーションは「賃貸物件の家賃向上」のためのプロジェクトだったのでしょうか。
そうとも言えます。家賃、つまり物件の価値を向上したいという思いはありました。しかしその根底にあったのは、オーナーさまの「街を面白くしたい」という願いです。
実はこのマンション、既に2部屋がリノベーション済みです。他社さんが手掛けた家賃UPの成功実績がありました。NENGOに3部屋目のリノベーションをお任せいただいたとき、オーナーさまからこんなご提案がありました。
「街に新しい属性の人が入ってくるような、賃貸物件にしたい」
「入居者の心をつかむ部屋をつくりたい」
そんな将来を一緒に実現すべく、挑戦的なプロジェクト構想が立ち上がりました。
街に住む人の属性が多様になっていくことで、街そのものが面白くなるはず。私たちはそう考え、そのために賃貸物件ができることを考えました。その結果、生活の質を底上げして、クリエイターやアーティストといったこれまでこのエリアに関心がおよんでいなかった新しい層の方に住んでいただける物件を企画しました。
―なるほど。家賃向上に加えて、街を豊かにしたいという思いから始まったプロジェクトなのですね。具体的に、他の賃貸物件とはどこが違うのですか。
特徴の一つは間取りの柔軟さです。
元々3DKだった間取りを1LDKとし、さらに1部屋分をカーテンで仕切れるつくりにしています。

開ければLDKの一部になり、閉めれば別の部屋になる。壁で区切るよりも柔軟に間取りを変えられるので、空間の使い方の幅がぐっと広がります。賃貸物件で間取りが変えられるのは珍しいんですよ。

間取りに可変性のある賃貸物件がレアなのは、1部屋より2部屋の方が高い家賃を付けやすいからです。広さにもよりますが「いくらまで出せるか?」を考えたとき、1LDKより2LDKの方が高いイメージがありますよね。しっかり壁で区切った1部屋が、物件の値段を決めることもあるのです。
この物件も当初は2LDKの計画でしたが、現場調査の際に工事担当者から「1LDK」案が出ました。現場経験のある監督ならではの視点でこのアイデアは生まれました。
―賃貸でも間取りが柔軟な物件は、多様化したライフスタイルに対応して「新しい属性の人」を呼びそうですね。間取りを変更したことは、温熱環境の改善にも役立ったと伺いました。
そうなんです。部屋数を減らした分、エアコンの数も減りました。ただし部屋が広くなると断熱性能がやや下がるので、窓にインナーサッシを追加して、快適さを担保しました。
減らした1部屋は共用部の廊下に面していて室外機が置けないため、エアコンの設置を諦めるか「窓用エアコン」くらいしか選択肢がありませんでした。
室外機と室内機が一緒になっていて、窓を半分空けたまま取り付ける「窓用エアコン」は、断熱と防犯の点ではあまりオススメできません。また「入居者の心をつかむ」ことを考えると見栄え的にも望ましくありませんでした。
壁をなくし広い畳数に対応したエアコンを置くことで、快適性とデザイン性、その両方の課題を解決できました。エアコンが不要な時期には窓を開ければ、部屋全体を心地よい風が通り抜けていくでしょう。
―窓用エアコンにはもちろん良さもありますが、部屋を快適に保つ工夫は考え方次第で変えられるのですね。他に特徴はありますか?
もう一つ大きな特徴は、壁と天井の全面にポーターズペイントを採用している点です。
陰影が美しく、住まいの質が間違いなく高まります。色はどんな暮らしにも馴染む色を採用しました。また、採光や部屋ごとの広さと用途を考え、最適な色とテクスチャーを塗り分けました。
日本の住宅はまだまだビニールクロスが主流ですが、特に賃貸物件は張り替えのタイミングで毎回施工費がかかりますし、大量のクロスごみが出てしまいます。部分的にタッチアップができる塗装仕上げは、賃貸物件にこそおすすめなんですよ。

さらに、工事中に参加者を募って現場でペイントワークショップを開催しました。ポーターズペイントにご興味のある方や、近くにお住まいの方にお越しいただきました。オーナーさまにもご参加いただき、タッチアップのイメージを掴んでいただくことができました。地域との関わりと手作業の跡によって、この物件はより温度のある「思い出の残る空間」になりましたね。

―ポーターズペイントは、陰影がとても美しいですよね。仕上げへのこだわりも、物件を差別化しているのですね。
―このお部屋は早速ご入居が決まったそうですが、どんな属性の方が選んでくださったのですか?
ご自宅でお仕事をされるクリエイターのお2人にご入居いただきました。
居室をワークスペースとして、カーテン仕切りの部分にはベッドを置いてご使用いただくそうです。ニューヨークのソーホースタイルのような感じですね。
当初の狙い通り、ライフスタイルに合わせた柔軟な使い方をしていただき、私たちとしても嬉しい限りです。
―オーナーさまが願った「街に新しい属性の人を呼ぶ」賃貸物件が実現したんですね。
―最後に、今後賃貸物件の価値を向上するアプローチとして、今回の事例を再現するべきだと思いますか。
正直なところ、今回やったことをそのまま真似すれば家賃が上がるとは言えません。間取りの工夫やポーターズペイントなど、参考になる要素はありますが、それらを単純に当てはめれば成功するとは限らないからです。
だからこそ私たちは、物件ごとに「何が価値なのか」「誰に求められるのか」を丁寧に読み込むことを重視しています。立地やターゲット、オーナーさまの意向、投資回収のバランスなどは物件ごとに異なるため、価値向上の条件も変わります。
一方で、「どの物件にも共通する視点」としての普遍性はあります。たとえば、
・暮らしにフィットする間取り
・上質な仕上げ(ポーターズペイント等)
・快適な温熱環境
といった「人が選ぶ理由」につながる価値は、時代が変わっても重要であり続けます。
ただし、それらをどう組み合わせ、どこに力点を置くかは、物件ごとの読み込み次第です。
つまり、再現できるのは「施策」ではなく、「価値を見極める視点」だと考えています。
―おっしゃる通りですね。オーナーさまが大切にされてきた物件をめぐって、周囲の人をどう幸せにしていくか、1件1件に真剣に向き合っていかれることと思います。濱口さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
NENGOではご所有物件の活用についてのご相談を承っております。
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