津田山の家プロジェクト<br/>住まい手さんインタビュー
2024.01.30

津田山の家プロジェクト
住まい手さんインタビュー

PRESS・MEDIAPROJECT

リノベーション工事をお手伝いさせていただいた「津田山の家」。
設計は浜口ミホ氏。日本人女性初の建築家で、ダイニングキッチンの生みの親とも言われています。
現存する極めて少ない浜口ミホ氏設計、築55年の家を5人のご家族が継承されました。
既存の意匠をリスペクトしながらリノベーションし、移り住んでから1年半。
今回は住まい手さんにリノベーションに対する考えや、実際の暮らしについてお話を伺いました。


|そもそも「津田山の家」を購入した決め手は何ですか?

津田山の家に出会う2、3年前からずっと、この住宅周辺のエリアで物件を探していたんです。
でも夫婦2人と子ども3人で暮らすのに十分な広さの物件はほとんどなくて…。
あぁ全然見つからないなと物件探しを半ば諦めていたところに、この建物と出会う機会がありました。

お話をいただいた次の日にすぐに内見をして。これまでずっと物件を探していたこともあって、これ以上の物件はないと思い、すぐに購入を決めました。
この家の間取りは浜口ミホさんが設計した当初から変えなくても十分今の暮らしにフィットするだろうなと。
何よりもこの建物自体がもつ魅力に惹かれました。

ご紹介くださった方が、浜口ミホさんの資料をたくさん持ってきてくれて、時代に捉われない彼女の想いやストーリーに惹かれたのも決め手のひとつです。
 
|購入する際に旦那さまより「覚悟はあるのか?」と尋ねられたとか?

そうなんです。やっぱり築古の木造戸建てということもあって、“リノベーションは配管などインフラ周りに費用がかかるから、意匠的にやりたいことはほとんどできないかもしれない。しかもリノベーションをして終わりではなく、住んでからもきっと色々問題が出てくるだろう。メンテナンスし続ける必要があるよ。それでもここに住む覚悟はある?”と聞かれました。

|それでもやっぱりこのお住まいの魅力に惹かれたんですね

そうですね。マンションや中古戸建てだとこれ以上の物件はなかったし、新築の戸建てを買うにもそれこそ土地の購入だけで、多くの費用がかかってしまう。
この建物なら、大きな格子窓や、元々貼られているタイルなどがとても素敵だったので、意匠的に大幅に手を加えなくても、満足のいく空間になるだろうと思いました。
 

リノベーション前のようす。既存のままの碧色のタイルや光が差し込む格子窓

 
お住まいになって、ご近所の方から「ありがとう」との声があったと聞きました。

そうなんです。リノベーション中に、近所のご年配の方から“立て壊されるのではないかと心配していた。この街にずっとあった建物だから残してくれてとても嬉しい”とお言葉をいただきました。
建物を住み継ぐことで、地域の方に感謝されるなんて思っていなかったので驚きましたが、とても嬉しかったです。

|実際に暮らしてみていかがですか?

家の中で子どもが走り回ったり、大きな声で歌ったりと、のびのびと過ごしてくれていることが嬉しいです。
マンションだとそうはいかないじゃないですか。
それに、この街は町内会が活発で、地域の方との交流もあって、餅つき大会や夏祭りを通して、街と人の良さを感じています。

最近は恐竜がお気に入り。男の子2人で使う子ども部屋

のびのびと家族でくつろげるリビング

 
|実は、お邪魔してからずっと、インテリアも気になっていました。
 リノベーションしたこのお住まいにとても馴染んでいるように感じます。

ありがとうございます。上質で長く普遍的に使えるインテリアを選んでいます。
例えばこの椅子の仕上げは、職人さんの手で1つ1つ丁寧にやすりをかけて、まるみや座り心地など、細部に至るまで目で見て、手で触れて確認をしているんです。
やっぱり毎日触れるインテリアも、最初から完成してるのではなく、暮らしの中で育てていくものだと思っています。
家族と共に思い出を刻んでいける存在にしたいものです。

CARLHANSEN&SONのラウンジチェア

 
|インテリアも家と一緒で、ゆっくりと時間をかけて育んでいくんですね。

実を言うと最初は、引っ越したときに「完璧にしたい!」と思っていたんです。長年家具貯金とかもしてて。
インテリアがもともと好きなのもあって、すごくすごく悩みながら揃えました。
でも暮らしてみたらやっぱり違ったな…と思うものもあって…
竣工後すぐに撮影してもらった時からも少しづつ変わっています。

家つくりがリノベーションをして終わりという訳ではないように、
今は暮らしにうまく溶け込むように変容させながら、
飽きることなく寄り添える、私たちらしい空間をつくっていけたらと思っています。

リビング|BEFORE:竣工後すぐ|AFTER:竣工から1年半後

 
|素敵です。インテリアの他にも、気に入っている場所や時間帯はありますか?

やっぱりダイニングですかね。自然と家族が集まります。
子どもたちがまだ小さいのもあって、みんなここで勉強をしています。


 
|やはりダイニングはこの建物のキーワードなんですね。
 半世紀前に設計されたダイニングの間取りは今も変わっていないということですが、
 使い勝手はいかがでしょうか?

最初はオープンキッチンなことに抵抗があって。何も隠せないので(笑)
でもダイニングテーブルが作業台になったり、食事を運ぶ導線がすごく楽だったり、
隠せないからこそちゃんと綺麗さを保つようにもなって、今はこの形が気に入っています。
半世紀前と使い方を変えなくても、現代の生活様式に馴染むなんて、
さすがダイニングキッチンの生みの親ですよね。

あ、あとリビングで1人で晩酌している時間も気に入っています(笑)
ちょうど夜この椅子に座っていると格子窓から月が見えて、子どもが寝たあと、
眺めながらお酒を嗜むひとときは、なによりの贅沢タイムです。

 
|逆に、暮らしてみて困ったことはありますか?

住んでから1度、雨漏りがありました。
工事が始まったばかりの内装の解体後にも、設計士やNENGO工務店の現場監督の方に、色んなところを確認してもらっていました。
その後、工事中に大雨が降ったときにも、担当の現場監督の方がすぐに確認しに行ってくれて、事前に出来るだけの確認をしてくださっていました。
それでも入居後に雨漏りが発生してしまったんです。
最初に言った”覚悟”の話につながるかもしれませんが、住み始めないと分からない問題もあるんだなと実感しました。

もうひとつは、やはり寒さの面でしょうか。
使われている開口部のサッシが、今ではもう生産されていないそうです。
意匠的にも、製品としても貴重なものだし、まずはそのままの状態で1年住んでみよう!と設計士、現場監督の方と話したうえで、今もそのまま使っています。
1年住んでみた感想としては”意外に大丈夫だな”という感覚です。
もちろん、冬快適な暖かさがキープされるかと言われるとそうではないのですが。
厚手のカーテンや、リビングにカーペットを敷いたりと工夫しながら過ごしています。

 
|リノベーションの良否を理解して、受容してくださっていますよね。

主人と話をして築古戸建てのリノベーションの難しさも理解してから購入しました。
事前に担当の現場監督の方が、家の性格を丁寧に説明してくださったことも大きいです。
リノベーションって解体してみないと分からないことも多いし、メンテナンスも必要になってくる。
全てが完璧で綺麗な状態が良い方は、新築がいいのかなと思います。
 
|最後にこれからどのような住まいにしていきたいか教えてください。

この建物は丁寧に設計・建築され、前にお住まいの方が大切に住み継がれ、地域の方にも見守られてきました。
今、私たち家族が引き継がせてもらい、暮らしていけることは、何にも変えられない価値だなと、この1年半暮らしてみて改めて感じています。
言葉にするとありきたりですが、これからも家族と過ごす時間を大切に、穏やかな住まいを育んでいきたいです。
この建物の築100年目は次の世代が継承してくれたらな、なんて思っています。

Photo:AKIRA NAKAMURA
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